、しかも楯の両面のごとく教育上の新施設を器用に取り入れること――。校長は生徒を集める朝礼には決ってそれを訓諭した。
「皆さん、皆さんは先生の言いつけをまことによく守るよい生徒であり、またよい日本人でありますぞ。そこで日本の国をよくしようとする皆さんは、忘れずにこの学校をよくしようとします。この学校はたいへん綺麗《きれい》だと賞《ほ》められる――嬉《うれ》しいですね、それは皆さんが一生懸命に掃除をするからだ、掃除の好きなよい生徒がこんなにたくさんいるんですからには、いいですか? この学校が建った時よりもかえってますます綺麗になるわけでしょう? わかりますなあ……おお、わかった人は手をあげなさい」講堂にあふれている子供たちの手がいっせいに彼らの頭上に揺めきだした。校長は眼尻の皺《しわ》を深めてそっと周囲の壁を一瞥《いちべつ》する。子供たちの顔もそれにつれて素早《すば》やく一廻転する。その時老朽に近いこの校長は、たあいもなく満足の微笑を見せ、ひときわ声を高くして「よろしい――」と叫んだ。
「それでは皆さん、手を下して、よし……」
「しかし――」と校長は教員室の前で立ち停《どま》った。陰気くさ
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