白い壁
本庄陸男

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)癇癪《かんしゃく》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)十三坪何|勺《しゃく》か

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「耳+丁」、第3水準1−90−39]聹栓塞《ていでいせんそく》
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     一

 とうとう癇癪《かんしゃく》をおこしてしまった母親は、削《けず》りかけのコルクをいきなり畳に投げつけて「野郎ぉ……」と喚《わめ》くのであった。
「いめいめしいこの餓鬼《がき》やあ、何たら学校学校だ。この雨が見えねえか! 今日は休め!」
「あたいは学校い行くんだ」
 富次は狭い台所ににげこんでそう口答えをした。しばらく彼はそこでごとごといわせていたが、やがて破れ障子の間からするりと出てきて蒼《あお》ぐろい顔をにやりとさせた――「なあおっ母《か》あ、お弁当があんのに休まれっかい、あたいは雨なんておっかなくねえや」
「ええっ! この地震っ子――」と母親は憎悪《ぞうお》をこめて呶鳴《どな》ってみたが、す
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