くぞろぞろ歩いていた教員たちははっとして校長の顔を見かえる。すると彼はちょこちょこと杉本に追いついて君――とその肩をたたいた。「君の組は特別に注意してくれんと困るわい、手だけは人真似にはいはいとあげとったが、どだい君の受け持っとる低能組はわしの話を聞いとりゃせなんだ」
 午前九時かっきりになると、昇降口の扉はたった一枚だけをくぐり[#「くぐり」に傍点]のように半びらきにして、あとは全部使丁の手で閉じられてしまった。おくれかけた子供は恐怖の色を浮べてとびこんできた。柏原富次は鞄と傘と、緒《お》の切れた泥下駄をいっしょくたに胸にかかえていた。泥だらけのたたき[#「たたき」に傍点]を水洗いしていた使丁がいまいましげに舌打ちしてそれに呶鳴りつけた、「ばか野郎……そ、その泥足は何でえ……」ぴくりと富次は驚くのであるが、その時彼はえり頸を掴まえられてすでに足洗い場に運ばれていた。「それ、それ――」と使丁はがなりつける。「まだ踵《かがと》にいっぺえくっついてるじゃねえか――何だ、手前の脚は? 月に一ぺんぐらいはお湯にへえってんのか?」
「あたいはね、今日ね、お弁当を持ってきたんだよ」と富次は胸にたた
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