、が、さ」すると親爺が一声合いの手を入れるのであった。「こちとらはやりきれねえだ!」
話はまわりくどく、時々言葉のきれはしは風に吹さらわれるのであるが、日傭労働者の父親は一人でも口を減らさなければやって行けないと言い、継母はあんまりこの子も親の恩知らずだと高尚な理窟をこねた。二三年この方電気ブラン一杯もひっかけられないと言う親爺は、小僧にほしいというこんないい口を、武の奴めが嫌がるはずはねえ、聞いてみれば先生に相談しなきゃあと小生意気を言いだしやがった。…………………………………………………はねえんだと一日責めたらば、元木武夫は憤然とこれ、このように学校ににげこんできた。餓鬼のくせに驚き入った野郎だが、一体全体………………………があるもんかどうか――「聞かしてもらいてえもんだ。あっしにとっちゃ生きるか死ぬかの大問題なんだ」と親爺は胸を張って一あし詰めより、ちらりとその女房の顔色をうかがった。「どうしたもんでしょうかねえ、先生さまあ」と今度は女がきゅうに悲しそうに悄《しお》れてみせ、無精ひげに包まれた杉本をねっとり睨むのであった。杉本はぶるぶる身体がふるえてきた。手を変え品を変えして今
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