武夫の運命が旋回しようとしていた。それもかえっていいだろう――と思いながら、「あたいは小僧い行きたくねえだよう――」と言って腰を揺ぶられると、手に負えない子供であるが、杉本は行かせたくないと決めるのであった。義務教育だ――そう言ってそんなむごい両親を突っぱねねばならぬと考えた。元木武夫の両親は揉手《もみて》をしながら、やがて屋上にあらわれてきた。
「へへえ、これは先生さまあ……」顎のしゃくれた女房がお世辞笑いをして科《しな》をつくるのであった。「ちっとばかり御相談にあがりましたんだが……」と子供によく似た父親がそのあとを受けた。元木武夫は教師のかげに身体をかくしてしまった。すると父親の顔がぐっと向きなおった。「お前さんは――」と彼は杉本に喰ってかかった。「あっしの伜にとやかく口を入れる権利はあるめえ」「順序を立ててお話しなくっちゃあ何ぼ先生さまでもねえ、まあお前さん」女房はそう言って、ますます杉本にへばりついた子供に、じろりと凄い一瞥《いちべつ》をくれた。「まったく今日このごろはひでえ不景気でして、ねえ、へッ、子供と遊んでてたいした月給を貰えるけっこうなお身分には不景気は素通りでしょう
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