た劇《はげ》しい呼吸が静まるまでには、しばらくの間があった。
「どうしたんだ?」と杉本がたずねた。
 そばにいた相棒の塚原義夫は、元木の頸に手をかけ、その顔を覗きこみながら断定するのだった。
「またお前、おっ母あに虐《いじ》められたんだな。お前えばかだい、ちえッ、学校休むやつがあるけえ――」それから彼は呪わしいことの一つ言葉を真顔でつぶやいた。「八幡さまにお前えは詛《のろ》われてんだぞ」
 元木武夫はまのびのした平べったい顔で、眼尻の下がった瞼をぱちくりさせていた。彼を取りまいた子供たちは、なぜかそれにひどく同感してふんふん頷《うなず》き、口の中で低く呟いていた。「そうだよ、そうだよ」と言って骨ばった塚原の手が元木の肩をおさえた。彼は軟かく二三度それを揺ぶって「お前はな、もうせん、八幡さまの池で、よ、ほら、亀の子を盗んだじゃねえか、え、そうだ、きっとお前そいで詛《のろ》われたんだ」「ちげえねえや」「おっかねえなあ」とそれが肯定されて行った。
「ば、ばか!」とたんに元木は叫んだ、「あたいは小僧い行くんが嫌《いや》なんだ、よう!」
 ほんのたった一日この子が欠席した間に、十二歳になった元木
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