行かあ――」と塚原義夫は父親と別れ、教師の腕にすがるのであった。うす暗い階段を螺旋《らせん》まきに駈けあがり天井を抜けると、ささくれ立ったコンクリートの屋上に出る。「おーい」と塚原がわめいて跳ねあがる。するとたくさんの子供が四方からばらばら集まってくる。彼らはそこに現われた教師を見て心のつっかえ[#「つっかえ」に傍点]棒を発見し、うれしくてたまらなくなるのだ。わあわっわ……と叫んで、教師の首といわず肩といわず、およそぶら下り触れうるところに噛りつくのであった。涎《よだれ》と鼻くそと手垢をこすりつけ、なぜかそうして満足し野方図《のほうず》にはしゃぎまわった。
 頑丈な金網をその周囲に高々と張りめぐらしている屋上運動場は、それだけで動物園の大きい檻《おり》を連想させた。そこだけが日没まで彼らにとって唯一の遊び場所になっていた。けれどもそこで一あばれすれば、初冬の陽がたちまち傾き、吹き抜ける風が目立って冷めたくなるのである。子供たちの唇はいちように紫色にかわる、その冷めたさを撥じきかえしてやろうという気力はなかった。ただ変な顰《しか》め面をして黙りこみ、しかたなしのように金網にへばりつく。す
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