―こちとら親子がな、おい、先生! 三日がところお飯《まんま》にありつけようというもんだ。こんな餓鬼にお前、眼鏡なんてしゃら臭くて掛けられっかてんだ。学校で要るってならば、お前さんさっさと買っとくれ!」
うすら禿の頭の地まで真赤にし、ぱっぱと唾を反《そ》っ歯《ぱ》の合間から撥きだしながら、そんなにも昂奮してみせるのであるが、じつはこの父親も、一度は眼鏡屋を訪れてみたのであった。しかし教師の前では勝手にしやがれと自暴自棄にわめきたてていた。「それではあんまり可哀そうだ――」と杉本はつい口を辷《すべ》らかして義夫のために骨折ろうとするのである。ところが親爺はこのもののわからぬ教師を今度は本気で呶鳴りつけた。
「か、かあいそうなのはこちとらじゃねえか! 腕を持ってて腕が使えねえこんな娑婆《しゃば》に生きながらえているこちとらじゃねえか! 子供のことまで文句をつけてもらうめえ」
子供は学校にあげねばならぬおきて[#「おきて」に傍点]だというから上げている。数年前、米屋が桝《ます》を使用していた時代には彼は錚々《そうそう》たる職人として桝取業をしていた。彼の腕にかかれば、必要に応じて、一斗の米
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