不良品として選びわけられ、今は彼に預けられた、低能な子供たちの住む「この社会」とは、同じ「この社会」でも社会の質が異っていた。そっちの社会で要求している……川上忠一も素気なく拒否したのだ。そうして彼は抗議する――何だってそんな巡査みたいなことを訊くんだい? 杉本は自嘲的に自分の職業を三つの単語で合唱する――「べからず、いけない、なりません」そいつにぐわんと抗議して川上忠一は教室をとびだして行った。一本お面を喰ってふらふらとまいった杉本は、…………………………、「…………、…………!」と叫びたい気持になってきた。杉本はうす闇の中でにやり歯を出して笑い、さておもむろに腰をあげた。すると、朝の八時からこんな日の暮れまでいらだてつづけていた神経が一度に崩れ、身体がくたくたに疲れているのを発見した。その杉本を、図体の大きな使丁がこれもいらいらしながら捜しあてたのであった。
「杉本さん、大変だぜ」と使丁がどなった。
「横着な面をするない」と杉本もどなりかえしていた。
 昇降口に仁王立ちになっていた使丁はむっとした。帰り仕度をしてしまった杉本も、それを見ていっそうむっとした。年がら年じゅうこづきまわ
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