かき合せ、上眼づかいに教師を見据えた。
「さっさと片づけて早く帰るとしようぜ」と杉本が言った、子供はぶるぶるっと両方の掌で顔を擦り、にたっと笑ってみせた。恥しがっていたのだ――それだのに、なぜこんなに執拗《しつこ》く促しているのだろう――職業がその子の智能を直接的に規定しているという理由からだけなのだ、そしてそれが検査要目の最初の項にあげられた設問だからである。杉本は狼狽《ろうばい》してそれをひっこめようとした。
「言いたくないんだったら……」
川上忠一はうるさげにそれを途中で遮《さ》えぎると、たたきつけるようにがなった。
「船だよ!」
「船? 船とはどんな船だい?」
「ちえっ――わかんねえな」そう舌打ちして子供は度胸を据えるのであった。さあこうなったら何でも喋《しゃべ》ってやるという風に、教師の顔を正面に見て語気をあらくした。「船は船じゃねえか! 大河をあっちい行ったり芝浦い行ったりする船じゃねえか。あたいがぎーっと舵《かじ》をおしてんだ、あたいだって――」川上はそこでうすい唇をつきだし早口になっていた。「まちがわねえでくれ、泥船じゃねえんだからな、ちゃんとした荷船でよ、あげ羽丸[
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