#「あげ羽丸」に傍点]てえんだ。でも、何だってそんな巡査みてえなことばかし聞くんだい?」杉本は蒼ざめて吸いかけているバットを揉み消した。「あたいらは正直もんだよ」と川上はさらにつづけた。「うそ[#「うそ」に傍点]なんてこれっぽっちも言いやしねえよ、さ、早くかえしてくんな」
「儲《もう》かるかい!」杉本はそう言って話題を外《そ》らそうとした。
「儲かるもんか!」川上忠一は眉根をしかめてそれを即座に否定した。「発動機に押されっちゃって、からっきし仕事がまわってこねえんだよ、遊んでる日がうんとあらあ、遊んでてもしかたがねえんだけんど、何しろ仕事がねえんだからなあ、父《ちゃん》だって辛《つら》いし、あたいだって――」そう雄弁になってぶちまけだした子供の言葉を、杉本はじいっと聞いていることができなくなった。彼は埃《ほこり》と床油の臭気が立て籠めていることに思いあたり廻転窓の綱をがちゃりと曳《ひ》いた。夕映えの反射がそこで折れて塗板の上をあかるくした。「先生えあたいなんかはなあ、まち[#「まち」に傍点]の子供みたいにあそんじゃいられねえよ、おっ母《かあ》の畜生が逃げっちゃったんだ、そうよ、船は儲か
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