丙やら丁やらで……なるほど、あっしら風情の餓鬼あ行儀は悪うがしょう、したが、それとこれとは訳がちがいまさあ、なあ先生様そういうものでがしょう? やれ着物が汚ないの、画用紙が買えなかったのと、そいでもって落第くらったんじゃあまったくたまんねえでがすよ。あっしゃあ考えました、こりゃあやっぱしええ学校に上げなくっちゃ嘘だとね……区役所で通知を貰うんには骨も折りましたが、はあ、いいあんばいにやっとこさこんな立派な学校へあげることができて――これ、忠!」と彼はそこで恥しそうに着物の腰あげを弄《いじ》くっている伜の手を引っ張るのであった。「ああ、見ろうな、こんな立派な御殿みてえな学校に来たんだから、お前もちゃんとお辞儀してお願い申すもんだ」それほどの気持で中途入学してきた川上忠一は、しかし、いきなり低能組に編入されたのである。校長はそれも彼の権限として、汚れくさったその子の通信箋を一瞥《いちべつ》すると何らの躊躇《ちゅうちょ》もなくこの教室にあらわれ、一個の器物を渡すかのごとく簡単にそれを杉本の手に渡そうとした。杉本はむっとして校長の顔を注視した。すると彼はその時はじめて腰の上に組んでいた後手をほ
前へ
次へ
全56ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
本庄 陸男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング