。するとあたかもそれを待ちかまえていたかのように阿部は「ちえッ!」と舌打ちした。「あたい、嫌んなっちまうなあ、変な顔してそんなに睨むなよ、ちえっ、おかしくって!」
三
それほど本当のことを何の怖気もなくぱっぱっと言ってしまう子供たちから、受持教師の杉本は低能児という烙印《らくいん》を抹殺したいとあせるのであった。もしこの小学校の特殊施設として誇っている智能測定が、まことに科学的であるというならば、子供の叫ぶ真実が軽蔑される理由はないではないか――「なあ……」と杉本は話しかける。「お前の思うとおりをじゃんじゃん答えるんだぞ。父《ちゃん》はどんな職業《しょうばい》だい?」
しかし放課後をひとりあとまで残された川上忠一は、それだけですでにおどおどしていた。数え年の十三歳(生活年齢は十二年と五カ月)で尋常四年生の彼は原級|留置《とめおき》を二度も喰った落第坊主だった。けれども父親にしてみれば、何とかしてこの子を――と思うのである。「何ちったってこいつを真から知ってんのはあっしですよ」と保護者の父親は学校の床に膝を折って懇願した。「家にいる時あ、とても頭がいいんだが、学校じゃあ
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