原は自分の瞼をぐいと操りあげ「野郎――」と罵《ののし》りかえした、「八幡さまに手前のことを呪ってやるから、おぼえてろお…………」
 順序も連絡もなくその子供らの考はぷくぷくと浮びあがった。しかしそのおそろしくばかげた喚きの底には、彼らの生活がのぞいていた。だから低能児なんだと言うが、杉本は彼らと暮しているうちに泡の底が見透けてきて「止めろ、止めないか!」と強圧することができないのだ。もしこの時廊下側の座席から久慈恵介が持ち前の金切声をふり絞って、「うるせえ、止めやがれ!」と飛びださなければ、二人の子供は殴り合いを初めそうにいきまきだしたのである。珍らしく小ざっぱりした小倉服の久慈は、かあいい眼をくりくり動かして「あのねえ――先生え」とつづけるのであった。「あのね、先生、元木の奴はね、あのね、壁いっぱいに変な絵を書きちらしました。あたいんちの………………だなんて言って、そいでもってさっきも塚原と喧嘩をしたんですよ、元木の奴は……」
 すると子供たちの眼は靡《なび》くようにいっせいに久慈を見つめた。彼はそういう風に注目されることが嬉しかった。傲然《ごうぜん》と反《そ》り身になって重々しく身
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