濛々《もうもう》たる白墨の粉の煙幕を立てていた。
教室のうしろ側にもぞもぞしていた年かさの子供たちが、教師の前ではどうしなければならぬかをようやく思いだすのであった。彼らはまず習慣的に「叱《し》っ、叱《し》っ」と口を鳴らし、はては「ばか野郎ッ」とどなって警告した。「先生が来てんぞ、先生が……」その警告によって児童はやっと教師の存在をみとめ、それがそうなっているのだったらしかたがないという風にのろのろ自分の席に戻った。それから長いことかかって教室が変に静まる、すると子供たちは杉本の顔を見つめてにたにた笑いだした。
「先生――修身だあ」とひとりの子供が突然一声叫んだ。
杉本は教卓のそばに椅子を寄らせて、顎杖をつき、ひとわたり子供を見わたした。窓は豊富に仕切られ白い壁は光線に反射しているのであるから、子供たちのさまざまな顔はがらん洞に明るすぎ、かえって重苦しく重なっているのだった。口を開けっ放しにして天井《てんじょう》ばかり見ているもの、眼をしかめたり閉じたりぐるぐるまわしたりしているもの、洟汁《はな》を絶えず舌の先で啜《すす》っているもの――いちおうは正面を向いて、何か教師の言いだすこ
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