―」
「だから、尚更ら――」
「馬鹿ッ!」
 親爺は茶碗を鉄瓶に投げつけた。突然、可愛さと憎さがこんがらがって、わなわなとふるえ出した。母親は、飯台を急いで片づけながら涙声を上げた。
「清二――年寄りを泣かすでねえぞ。肩身が狭くて出面に出られんぞ。旦那はお前、旦那はな。」
「だから、よ。」
「みんな辛えぞ、みんなァ……」とあとは母親の何度となく繰りかえした泣きくどきになっていた。
 そこへ裏口から隣りの内儀さんがはいって来た。まぶしそうにきょろきょろして内儀さんは腰をかがめた。
「お蔭様で――助かります。はい」
 あわてて涙を拭いた母親が、わけもわからず答えた。
「はい。」
「戻んて来ることになっとった甚吉が、戦争で戻どれんので、今年の蒔付けはどうなるかと案じましたら、お蔭様で、明日は大勢で手伝うて下さるそうで――」それから内儀さんは云いにくそうに「――飯米を、五升ほど……何せ、お昼飯など出そうと思いますんけんど……」
「まさか、飯、食いに行くでもねえでしょう? お内儀さん。」
「そうだよ。全く。お父っつあ――」
 そういって立ち上った清二を親爺はぎょろっと見上げた。
「な、お父つあ、
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