前夜
本庄陸男
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)剥《は》ね開けて
×:復元された伏せ字
(例)警察を恨[#「恨」に「×」の傍記]めよ。
−−
音のしないように板戸を開けた、親爺は煙管を横ぐわえにしてじろっと此方を見た。夜目にもその目が血走っていた、清二は腫物にさわるような思いで地下足袋を脱ぎ、井戸端に行ってゆっくり足を洗った。掘抜井戸の水が脚に流れ落ち砕けていた。
馬小屋で、馬が鼻をならし乍ら頻りにあがいた、首を上げると庭先を自転車が辷り込んで来た。村瀬だった。
「どうでえ?」と彼はひどくうれしそうな声で云った。
「出征兵士遺族の畑の、メーデー耕作とは、常任、頭が利くな?」
目だけ光らして清二は、だまって頷いた。すると村瀬は太い親指を鼻先に突き出し、二三度ふりまわしてニコッと笑った。こちらはまだ返事をしないうちに、気配に知った親爺が家の中から喚いた。
「清二ッ……何時まで脚洗ってるだッ……」
そして呼ばっただけで安心ならないで、ガラッと戸を剥《は》ね開けてのしのし出て来た。
「明るみで話せねえ話を、まあだお前等ァしてけつかるのかッ……」
「何
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