れもその理由を知つてをるものはないのだが)而して先生は政治が大嫌で、随つて政治家などを毛虫の様に嫌つてゐた。先生は衆議院議員だとか又は政党者流特にこれ等の人達の演説などが大嫌で、遂には市長や知事迄が嫌ひだと云ふのである……而してそれ等を罵倒する時は所謂口角沫を飛ばすの勢で……。――しかもその悪態は口先ばかりではなく、ともすると、その筆端にも隠見するものである――突然先生は『嗚呼口が汚がれる、ペッペ、外の事を話さうぢやないか』と、稍※[#二の字点、1−2−22]冷静になつて、『さあ何でも話して上げるよ……おれの命が欲しいならば、それも喜んで進上するさ』と、至極の上機嫌。
先生は書斎へ這入つていつもの椅子に腰掛けて巻煙草を燻らせた。すると前に写真機が据ゑ付けられた。みんなが同時に同じ事を考へた。おい、トリユックは? トリユックは何処へ行つた? トリユックが主人公の傍にゐないでは……トリユック、トリユックと、アンネット嬢さんはやさしい声で犬を呼ぶのであるが、トリユックは何処へ行つたか見付からない。
犬は写真機が怖いので卓子の下に隠れてゐた。それをやつとの事で、肘掛け椅子の上へ蹲踞らせた
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