唐浮fre semblably, and obey justyce!”
[#ここで字下げ終わり]
 右に掲げた話は同書中の記事に拠ったのである。
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 三三 栴檀《せんだん》を二葉に識《し》る


 ここは英国某市の裏通り、数人の児童今やマーブル遊びに余念もない。彼らは皆小学校にも通われぬほどの憫《あわれ》むべき貧児である。折からボーイス(Boyse)という一僧侶この場に来|懸《かか》り、暫くこの遊びを眺めておったが、忽ちこの鶏群《けいぐん》中に一鶴《いっかく》を見出した。相貌|怜悧《れいり》、挙止敏捷、言語明晰、彼は確かに野卑遅鈍なる衆童を圧して一異彩を放っておった。僧侶は頻《しきり》にこの児に対して愛憐の情を催し、菓子を与えてその家に誘い帰り、これに文字を教えてみると、果して一を聴いて十を識るの才がある。僧侶はいよいよ乗り気となり、授業料を給して学校に通わせることとした。
 歳月流るるが如く、三十年は既に過ぎ去って、今や一箇の長老となりたるボーイス師は、一日議会を傍聴した。僧侶の身として何故にと怪しむことなかれ。これ彼がかつて培いたる栴檀《せんだん》の二葉が、今や議場の華と咲き出でたる喜びの余りである。昔街頭にマーブルを弄《もてあそ》んだ貧児は、今や演説壇上満堂の視線を一身に集めている。※[#「※」は「足偏に卓」、第4水準2−89−35、106−1]※[#「※」は「勵−力」、第3水準1−14−84、106−1]風発《たくれいふうはつ》、説き来り説き去って、拍手喝采四壁を撼《うご》かす時、傍聴席上の一老僧はソーッとハンケチをポケットから引出して目に押当てた。
 この雄弁なる国会議員こそ、実に我が大岡越前守とひとしく、幾多裁判上の逸話を遺《のこ》したる著名の弁護士カラン(Curran)その人であった。
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 三四 カランの法術


 英国の一農夫、或る宿屋に泊って、亭主に百|磅《ポンド》の金を預け置き、翌朝出発の時これを受取ろうとした。ところがこの亭主は甚だ図太い奴で、金などを御預りしたことはないと空とぼける。百姓は大きに腹を立てて厳重に懸合《かけあ》うけれども、何分証拠がないこととて如何とも仕様がない。弱り果てて、当時有名の弁護士カランの許を訪《おと》ずれ、どうか取戻の訴を起してくれと頼んだ。カラン暫《しばら》く思案して、「それ位なこ
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