うせん》と相接して、互に利害を異にするは勿論《もちろん》、日本国中において封建の時代に幕府を中央に戴《いただい》て三百藩を分つときは、各藩相互に自家の利害《りがい》栄辱《えいじょく》を重んじ一毫《いちごう》の微《び》も他に譲《ゆず》らずして、その競争の極《きょく》は他を損じても自から利せんとしたるがごとき事実を見てもこれを証すべし。
 さて、この立国立政府の公道を行わんとするに当り、平時に在《あり》ては差《さ》したる艱難《かんなん》もなしといえども、時勢《じせい》の変遷《へんせん》に従《したがっ》て国の盛衰《せいすい》なきを得ず。その衰勢《すいせい》に及んではとても自家の地歩を維持するに足らず、廃滅《はいめつ》の数すでに明《あきらか》なりといえども、なお万一の僥倖《ぎょうこう》を期して屈することを為《な》さず、実際に力|尽《つ》きて然《しか》る後に斃《たお》るるはこれまた人情の然《しか》らしむるところにして、その趣を喩《たと》えていえば、父母の大病に回復の望なしとは知りながらも、実際の臨終に至るまで医薬の手当を怠《おこた》らざるがごとし。これも哲学流にていえば、等しく死する病人なれば、
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