すること能わず。すなわち国を立てまた政府を設《もうく》る所以《ゆえん》にして、すでに一国の名を成すときは人民はますますこれに固着《こちゃく》して自他の分《ぶん》を明《あきらか》にし、他国他政府に対しては恰《あたか》も痛痒《つうよう》相《あい》感《かん》ぜざるがごとくなるのみならず、陰陽《いんよう》表裏《ひょうり》共に自家の利益《りえき》栄誉《えいよ》を主張してほとんど至らざるところなく、そのこれを主張することいよいよ盛なる者に附するに忠君《ちゅうくん》愛国《あいこく》等の名を以てして、国民最上の美徳と称するこそ不思議なれ。故に忠君愛国の文字は哲学流に解すれば純乎《じゅんこ》たる人類の私情《しじょう》なれども、今日までの世界の事情においてはこれを称して美徳といわざるを得ず。すなわち哲学の私情は立国の公道《こうどう》にして、この公道公徳の公認せらるるは啻《ただ》に一国において然《しか》るのみならず、その国中に幾多の小区域あるときは、毎区必ず特色の利害に制せられ、外に対するの私《わたくし》を以て内のためにするの公道と認めざるはなし。たとえば西洋各国|相対《あいたい》し、日本と支那|朝鮮《ちょ
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