すべからざるものと観念して唯《ただ》一身を慎《つつし》み、一は以《もっ》て同行戦死者の霊を弔《ちょう》してまたその遺族《いぞく》の人々の不幸不平を慰《なぐさ》め、また一には凡《およ》そ何事に限らず大挙《たいきょ》してその首領の地位に在る者は、成敗《せいはい》共に責《せめ》に任じて決してこれを遁《のが》るべからず、成《な》ればその栄誉《えいよ》を専《もっぱ》らにし敗すればその苦難《くなん》に当るとの主義を明《あきらか》にするは、士流社会の風教上《ふうきょうじょう》に大切《たいせつ》なることなるべし。すなわちこれ我輩《わがはい》が榎本氏の出処《しゅっしょ》に就《つ》き所望《しょもう》の一点にして、独《ひと》り氏の一身の為《た》めのみにあらず、国家百年の謀《はかりごと》において士風|消長《しょうちょう》の為《た》めに軽々《けいけい》看過《かんか》すべからざるところのものなり。
 以上の立言《りつげん》は我輩《わがはい》が勝、榎本の二氏に向《むかっ》て攻撃を試《こころ》みたるにあらず。謹《つつし》んで筆鋒《ひっぽう》を寛《かん》にして苛酷《かこく》の文字を用いず、以《もっ》てその人の名誉を保護
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