論もあるべきなれば、氏の為《た》めに謀《はか》れば、たとい今日の文明流に従って維新後《いしんご》に幸《さいわい》に身を全《まっと》うすることを得たるも、自《みず》から省《かえり》みて我《わが》立国《りっこく》の為《た》めに至大至重《しだいしちょう》なる上流士人の気風《きふう》を害《がい》したるの罪を引き、維新前後の吾身《わがみ》の挙動《きょどう》は一時の権道《けんどう》なり、権《か》りに和議《わぎ》を講じて円滑《えんかつ》に事を纏《まと》めたるは、ただその時の兵禍《へいか》を恐れて人民を塗炭《とたん》に救わんが為《た》めのみなれども、本来|立国《りっこく》の要は瘠我慢《やせがまん》の一義に在《あ》り、いわんや今後敵国|外患《がいかん》の変《へん》なきを期《き》すべからざるにおいてをや。かかる大切《たいせつ》の場合に臨《のぞ》んでは兵禍《へいか》は恐るるに足《た》らず、天下後世国を立てて外に交わらんとする者は、努※[#二の字点、1−2−22]《ゆめゆめ》吾《わが》維新《いしん》の挙動《きょどう》を学んで権道《けんどう》に就《つ》くべからず、俗にいう武士の風上《かざかみ》にも置かれぬとはす
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