所望《しょもう》の筋《すじ》なきを得ず。その次第《しだい》は前にいえるごとく、氏の尽力《じんりょく》を以て穏《おだやか》に旧政府を解《と》き、由《よっ》て以《もっ》て殺人|散財《さんざい》の禍《わざわい》を免《まぬ》かれたるその功は奇《き》にして大なりといえども、一方より観察を下《くだ》すときは、敵味方|相対《あいたい》して未《いま》だ兵を交《まじ》えず、早く自《みず》から勝算《しょうさん》なきを悟《さと》りて謹慎《きんしん》するがごとき、表面には官軍に向て云々《うんぬん》の口実ありといえども、その内実は徳川政府がその幕下《ばっか》たる二、三の強藩に敵するの勇気なく、勝敗をも試《こころ》みずして降参《こうさん》したるものなれば、三河武士《みかわぶし》の精神に背《そむ》くのみならず、我日本国民に固有《こゆう》する瘠我慢《やせがまん》の大主義を破《やぶ》り、以て立国《りっこく》の根本たる士気《しき》を弛《ゆる》めたるの罪は遁《のが》るべからず。一時の兵禍《へいか》を免《まぬ》かれしめたると、万世《ばんせい》の士気を傷《きず》つけたると、その功罪|相償《あいつぐな》うべきや。
天下後世に定
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