《むざん》なる次第《しだい》なれども、自《おのず》から経世《けいせい》の一法《いっぽう》として忍《しの》んでこれを断行《だんこう》することなるべし。
すなわち東洋諸国|専制流《せんせいりゅう》の慣手段《かんしゅだん》にして、勝氏のごときも斯《かか》る専制治風の時代に在《あ》らば、或は同様の奇禍《きか》に罹《かか》りて新政府の諸臣を警《いま》しむるの具《ぐ》に供せられたることもあらんなれども、幸《さいわい》にして明治政府には専制の君主なく、政権は維新功臣《いしんこうしん》の手に在《あ》りて、その主義とするところ、すべて文明国の顰《ひん》に傚《なら》い、一切万事|寛大《かんだい》を主として、この敵方の人物を擯斥《ひんせき》せざるのみか、一時の奇貨《きか》も永日の正貨《せいか》に変化し、旧幕府の旧風を脱《だっ》して新政府の新|貴顕《きけん》と為《な》り、愉快《ゆかい》に世を渡りて、かつて怪《あや》しむ者なきこそ古来|未曾有《みぞう》の奇相《きそう》なれ。
我輩《わがはい》はこの一段に至りて、勝氏の私《わたくし》の為《た》めには甚《はなは》だ気の毒なる次第《しだい》なれども、聊《いささ》か
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