う》し、豊臣秀吉《とよとみひでよし》が織田|信孝《のぶたか》の賊臣|桑田彦右衛門《くわたひこえもん》の挙動《きょどう》を悦《よろこ》ばず、不忠不義者、世の見懲《みごら》しにせよとて、これを信考の墓前《ぼぜん》に磔《はりつけ》にしたるがごとき、是等《これら》の事例は実に枚挙《まいきょ》に遑《いとま》あらず。
 騒擾《そうじょう》の際に敵味方|相対《あいたい》し、その敵の中に謀臣《ぼうしん》ありて平和の説を唱《とな》え、たとい弐心《ふたごころ》を抱《いだ》かざるも味方に利するところあれば、その時にはこれを奇貨《きか》として私《ひそか》にその人を厚遇《こうぐう》すれども、干戈《かんか》すでに収《おさ》まりて戦勝の主領が社会の秩序《ちつじょ》を重んじ、新政府の基礎《きそ》を固くして百年の計をなすに当りては、一国の公道のために私情を去り、曩《さ》きに奇貨《きか》とし重んじたる彼《か》の敵国の[#「敵国の」は底本では「敬国の」]人物を目《もく》して不臣不忠《ふしんふちゅう》と唱《とな》え、これを擯斥《ひんせき》して近づけざるのみか、時としては殺戮《さつりく》することさえ少《すく》なからず。誠に無慙
前へ 次へ
全33ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング