ものなり。けだしその原因とは何ぞや。我が開国に次《つい》で政府の革命、すなわちこれなり。
 開国以来、我が日本人は西洋諸国の学を勉め、またこれを聞伝えて、ようやく自主独立の何ものたるを知りたれども、未だこれを実際に施すを得ず、またその実施を目撃したることもなかりしに、十五年前、維新の革命あり。この革命は諸藩士族の手に成りしものにして、その士族は数百年来周公孔子の徳教に育せられ、満腔《まんこう》ただ忠孝の二字あるのみにして、一身もってその藩主に奉じ、君のために死するのほか、心事なかりしものが、一旦開進の気運に乗じて事を挙げ、ついに旧政府を倒して新政府を立てたるその際に、最初はおのおのその藩主の名をもってしたりといえども、事成るの後にいたり、藩主は革命の名利《みょうり》にあずかるを得ずして、功名|利禄《りろく》は藩士族の流《りゅう》に帰し、ついで廃藩の大挙にあえば、藩主は得るところなきのみならず、かえって旧物を失うて、まったく落路《らくろ》の人たるが如し。
 従前は其藩にありて同藩士の末座に列し、いわゆる君公には容易に目通《めどお》りもかなわざりし小家来《しょうけらい》が、一朝《いっちょう
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