空気、乾湿の度を失い、太陽の光熱、物にさえぎられ、地性、瘠《や》せて津液足らざる者へは、たとい肥料を施すも功を奏すること少なきのみならず、まったく無効なるものあり。
教育もまたかくの如し。人の智徳は教育によりておおいに発達すといえども、ただその発達を助くるのみにして、その智徳の根本を資《と》るところは、祖先遺伝の能力と、その生育の家風と、その社会の公議|輿論《よろん》とにあり。蝦夷人《えぞびと》の子を養うて何ほどに教育するも、その子一代にては、とても第一流の大学者たるべからず。源家《げんけ》八幡太郎の子孫に武人の夥《おびただ》しきも、能力遺伝の実証として見るべし。また、武家の子を商人の家に貰うて養えば、おのずから町人根性となり、商家の子を文人の家に養えば、おのずから文に志す。幼少の時より手につけたる者なれば、血統に非ざるも自然に養父母の気象を承《うく》るは、あまねく人の知る所にして、家風の人心を変化すること有力なるものというべし。
また、戦国の世にはすべて武人多くして、出家の僧侶にいたるまでも干戈《かんか》を事としたるは、叡山《えいざん》・三井寺《みいでら》等の古史に徴して知るべし
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