身を離縁せよ放逐せよと請求するは、その名は養家より放逐せられたるも、実は養子にして養父母を放逐したるものというべし。「父子|有親《しんあり》、君臣|有義《ぎあり》、夫婦|有別《べつあり》、長幼|有序《じょあり》」とは、聖人の教にして、周公孔子のもって貴きゆえんなれども、我が輩は右の事実を記して、この聖教の行われたるところを発見すること能わざるものなり。
然りといえども、以上枚挙するところは十五年来の実際に行われ、今日の法律においてこれを許し、今日の習慣においても大いにこれを咎《とがむ》ること能わざるものなり。徳教の老眼をもってこの有様を見れば、まことに驚くに堪えたり。元禄年間の士人を再生せしめて、これに維新以来の実況を語り、また、今の世事《せいじ》の成行を目撃せしめたらば、必ず大いに驚駭《きょうがい》して、人倫の道も断絶したる暗黒世界なりとて、痛心することならんといえども、いかんせん、この世態《せいたい》の変は、十五年以来、我が日本人が教育を怠りたるのゆえに非ず。ただ開進の風に吹かれて輿論《よろん》の面目を改めたるがためなり。けだし輿論の面目とは、全国人事の全面目にして、学校教育の如
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