て我国古来の定論に反するのみならず、前には旧女大学の条々を論破し去て、更らに新女大学の新主義を唱うることなれば、新旧方円相容れずして世間に多少の反対論もある可し。旧説は両性の関係を律するに専ら形式を以てせんとし、我輩は人生の天然に従て其交情を全《まっと》うせんとするものなれば、所謂儒流の故老輩が百千年来形式の習慣に養われて恰も第二の性を成し、男尊女卑の陋習《ろうしゅう》に安んじて遂に悟ることを知らざるも固より其処《そのところ》なり、文明の新説を聞て釈然たらざるも怪しむに足らずと雖《いえど》も、今の新日本国には自から新人の在るあり、我輩は此新人を友にして親友と共に事を与《とも》にせんとする者なれば、彼等の反対は恐るゝに足らず。啻《ただ》に白頭の故老のみならず、青年以上有為の士人中にも、一切万事有形も無形も文明主義の一以て之を貫くと敢て公言して又実際に之を実行しながら、独り男女両性の関係に就ては旧儒教流の陋醜を利用して、自から婬猥不倫の罪を免れんとする者あるこそ可笑しけれ。文明の学者士君子にして、腐儒の袖の下に隠れ儒説に保護せられて、由て以て文明社会を瞞着《まんちゃく》せんとする者と言う可
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