警《いま》しめたるものならんなれども、人間の死生は絶対の天命にして人力の及ぶ所に非ず。昨日の至親《ししん》も今日は無なり。既に無に帰したる上は之を無として、生者は生者の謀《はかりごと》を為す可し。死に事《つか》うること生に事うるが如しとは人の情なれども、人情は以て人事の実を左右す可らず。例えば死者を祭るに供物を捧ぐるは生者の情なれども、其情如何に濃《こまやか》なるも亡き人をして飲食せしむることは叶わず。左れば生者が死者に対して情を尽すは言うまでもなく、懐旧の恨は天長地久も啻《ただ》ならず、此恨《このうらみ》綿々絶ゆる期《ご》なしと雖も、冥土|人間《じんかん》既に処を殊《こと》にすれば、旧を懐うの人情を以て今に処するの人事を妨ぐ可らず。一瞥心機を転じて身外《しんがい》の万物を忘れ、其旧を棄てゝ新|惟《こ》れ謀るは人間大自在の法にして、我輩が飽くまでも再縁論を主張する由縁なり。殊に男女の再縁は世界中の普通なるに、独り我日本国に於ては之を男子に自由にして女子に窮窟にす。自から両者対等の権力に影響なきを得ず。是れ亦我輩の等閑に看過せざる所のものなり。
右第一条より第二十三条に至るまで、概し
前へ
次へ
全39ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング