し。其窮唯憐む可きのみ。或は此腐儒説の被保人等が窮余に説を作りて反対を試みんとすることもあらんか、甚だ妙なり。我輩は満天下の人を相手にしても一片の禿筆《とくひつ》以て之を追求して仮す所なかる可し。左れば此旧女大学の評論、新女大学の新論は、字々皆日本婦人の為めにするものにして、之を百千年来の蟄状鬱憂に救い、彼等をして自尊自重以て社会の平等線に立たしめんとするの微意《びい》にして、啻に女性の利益のみに非ず、共に男子の身を利し家を利し子孫を利し、一害なくして百利百福を求むるの法なれば、女子幼少の時より能く此趣意の大概を言い聞かせ、文字を知るに至れば此書を授けて自から読ましめ、不審あらば懇《ねんごろ》に其意味を解き聞かせて誤ること勿《なか》らしめよ。古今父母の情は一なり、其子の男子たると女子たるとに拘らず、其兄たり弟たり姉たり妹たるを問わず、之を愛するの情は正しく同一様にして兎の毛ほどの差等もなかる可し。左れば此至親至愛の子供の身の行末を思案し、兄弟姉妹の中、誰れか仕合せ能くして誰れか不仕合せならんと胸中に打算して、此子が不仕合せなりと定まりたらば両親の苦痛は如何ばかりなる可きや。子供の心身の
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