ず温顔以て之に接して侮《あなど》ることなきと同時に、窃《ひそか》に其無教育破廉恥を憐むこそ慈悲の道なれ。要は唯其人の内部に立入ることを為さずして度外に捨置き、事情の許す限り之を近づけざるに在るのみ。
一 夫妻同居して妻たる者が夫に対して誠を尽す可きは言うまでもなき事にして、両者一心同体、共に苦楽を与《とも》にするの契約は、生命を賭して背く可《べか》らずと雖も、元来両者の身の有様を言えば、家事経営に内外の別こそあれ、相互に尊卑の階級あるに非ざれば、一切万事対等の心得を以て自から屈す可らず、又他をして屈伏せしむ可らず。即ち結婚の契約より生じたる各自の権利あるが故なり。故に婦人は柔順を尊ぶと言う。固《もと》より女性《にょしょう》の本色にして、大に男子に異なり、又異ならざるをえず。我輩の飽くまでも勧告奨励する所にして、女徳の根本、唯一の本領なりと雖も、其柔順とは言語挙動の柔順にして、卑屈盲従の意味に非ず。大節に臨んでは父母の命《めい》を拒《こば》み夫の所業に争うことある可し。例えば家計云々の為めに娘を苦界に沈めんとし、又は利益の為めに相手を選ばずして結婚せしめんとするが如き、都《すべ》て父母の
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