自身独立の一義に就ては夢想したることもなく、数十百部の小説本を読みながら一冊の生理書をも見たることもなき女史こそ多けれ。況して小説戯作は往々人の情を刺すこと劇《はげ》しくして、血気の春とも言う可き妙年女子の為めには先ず以て有害にこそあれば、文学の必要よりしていよ/\之を読まんとならば、其種類を選ぶこと大切なる可し。
一 婦人の気品を維持することいよ/\大切なりとすれば、敢て他を犯さずして自から自身を重んず可し。滔々《とうとう》たる古今の濁水《じょくすい》社会には、芸妓もあれば妾奉公する者もあり、又は妾より成揚《なりあが》り芸妓より出世して立派に一家の夫人たる者もあり、都て是等は人間以外の醜物にして、固《もと》より淑女貴婦人の共に伍を為す可き者に非ず、賤《いや》しみても尚お余りある者なれども、其これを賤しむの意を外面に顕《あらわ》すは婦人の事に非ず。我は清し、汝は濁る、我は高し、汝は卑しと言わぬ許りの顔色して、明らさまに之を辱しむるが如きは、唯空しく自身の品格を落すのみにして益なき振舞なれば、深く慎しむ可きことなり。或は交際の都合に由りて余儀なく此輩と同席することもあらんには、礼儀を乱さ
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