して何人に如何なる関係あるや、金銭上の貸借は如何、その約束は如何など、詳細の事実を知らずして、仮令い帳簿を見ても分明《ぶんみょう》ならず、之が為めに様々の行違いを生じて、甚しきは訴訟の沙汰に及ぶことさえ世間に珍らしからず。畢竟《ひっきょう》婦人が家計の外部に注意せざりし落度《おちど》にこそあれば、夫婦同居、戸外の経営は都《すべ》て男子の責任とは言いながら、其経営の大体に就ては婦人も之を心得置き、時々の変化盛衰に注意するは大切なることにして、我輩の言う女子に経済の思想を要すとは此辺の意味なり。
一 女子が如何に教育せられて如何に書を読み如何に博学多才なるも、其気品高からずして仮初にも鄙陋不品行の風あらんには、淑女の本領は既に消滅したりと言う可し。我輩が茲《ここ》に鄙陋不品行の風と記したるは、必ずしも其人が実際に婬醜の罪を犯したる其罪を咎むるのみに非ず、平生の言行野鄙にして礼儀上に忌む可きを知らず、動《やや》もすれば談笑の間にもあられぬ言葉を漏らして、当人よりも却て聞く者をして赤面せしむるが如き、都て不品行の敗徳として賤しむ可き所のものなり。例えば芸妓など言う賤しき女輩が衣裳を着飾り、酔客
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