の座辺に狎《な》れて歌舞|周旋《しゅうせん》する其中に、漫語放言、憚る所なきは、活溌なるが如く無邪気なるが如く、又事実に於て無邪気|無辜《むこ》なる者もあらんなれども、之を目して座中の婬婦と言わざるを得ず。芸妓の事は固より人外として姑《しばら》く之を擱《お》き、事柄は別なれども、上流社会に於ても知らずして自から誤るものあり。近来教育の進歩に随て言葉の数も増加し、在昔学者社会に限りて用いたる漢語が今は俗間普通の通語と為りしもの多き中にも、我輩の耳障《みみざわり》なるは子宮の文字なり。従前婦人病と言えば唯、漠然血の道とのみ称し、其事の詳《つまびらか》なるは唯医師の言を聞くのみにして、素人の間には曾て言う者もなく聞く者もなかりしに、近年は日常交際の談話に公然子宮の語を用いて憚る所なく、売薬の看板にさえ其文字を見るのみならず、甚しきは婦人の口より洩るゝなどの奇談も時としてはなきに非ず。唯|仰天《ぎょうてん》す可きのみ。抑《そもそ》も子宮の字は洋語の Uterus(ユーテルス)に当り、相互直訳の文字にして、西洋諸国に於ては医師社会に限りて之を用い、診察治療の必要に迫れば極内々に患者又は其家人に之
前へ
次へ
全39ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング