らにして夫《そ》れ/″\の家事に当らしむると同時に、到底自分の思う通りにはならぬものと最初より胸中に覚悟して多を望む可らず。此れも下女の不行届、其れも下男の等閑《なおざり》など、逐一計え立て徒《いたずら》に心配苦労して益なき事に疳癪を起すは、唯《ただ》愚《ぐ》と言う可きのみ。現在の下女下男を宜しからずと思わば、既往数年の事を想起し、其数年の間に如何なる男女が果して最上にして自分の意に適したるや、其者は誰々と指を屈したらば、おの/\一得一失にして、十分の者は甚だ少なかる可し。既往|斯《かく》の如くなれば現今も斯の如し。将来も亦《また》斯の如くならんと勘弁す可し。婢僕《ひぼく》の過誤失策を叱るは、叱らるゝ者より叱る者こそ見苦しけれ。主人の慎しむ可き所なり。
一 婦人は家を治めて内の経済を預り、云わば出るを為すのみにして入るを知らざる者の如くなれども、左りとては甚だ不安心なり。夫とて万歳の身に非ず、老少より言えば夫こそ先きに世を去る可き順なれば、若し万一も早く夫に別れて、多勢の子供を始め家事万端を婦人の一手に引受くるが如き不幸もあらんには、其時に至り亡人《なきひと》の存命中、戸外に何事を経営
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