えば小児が腹痛すればとて例の妙薬黒焼など薬剤学上に訳けの分らぬものを服用せしむ可らず、事《こと》急なれば医者の来るまで腰湯パップ又は久しく通じなしと言えば灌腸を試むる等、外用の手当は恐る/\用心して施す可きも、内服薬は一切禁制にして唯医者の来診を待つ可し。或は高き処から落ちて気絶したる者あらば酒か焼酎を呑ませ、又切疵ならば取敢えず消毒綿を以て縛り置く位にして、其外に余計の工夫は無用なり。或人が剃刀《かみそり》の疵に袂草《たもとぐさ》を着けて血を止めたるは好けれども、其袂草の毒に感じて大患に罹りたることあり。畢竟無学の罪なり。呉々も心得置く可きことなり。是等の事に就ては世間に原書もあり翻訳書もあり、之を読むは左までの苦労にあらず、婦人の為めには却て面白かる可し。
一 下女下男を召使うは随分骨の折れることにして、使われる者は力を労し使う者は心を労す。主人の方こそ却て苦労多かる可し、下女下男にも人物様々、時としては忠実至極の者なきに非ざれども、是れは別段のことゝして、本来彼等が無資産無教育なる故にこそ人の家に雇わるゝことなれば、主人たる者は其人物如何に拘らず能く之を教え之を馴らし、唯親切を専
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