なれ。元来を言えば婦人の遊楽決して咎む可らず。鬱散養生とあれば花見も宜し湯治も賛成なり、或は集会宴席の附合も自から利益なれども、其外出するや子供を家に残して夫婦の留守中、下女下男の預りにて、初生児は無理に牛乳に養わるゝと言う。恰も雇人に任せたる蚕の如し。其生育如何は自問して自答に難からざる可し。在昔《ムカシ》大名高家の子供に心身|暗弱《あんじゃく》の者多かりしも、貴婦人が子を産むを知て子を養育する法を忘れたるが故なり。篤《とく》と勘考す可き所のものなり。故に我輩は婦人の外出を妨げて之を止むるに非ず、寧ろ之を勧めて其活溌ならんことを願う者なれども、子供養育の天職を忘れて浮かれ浮かるゝが如きは決して之を許さず。此点に就ては西洋流の交際法にも感服せざるもの甚だ多し。又婦人は其身の境遇よりして家に居り家事を司どるが故に、生理病理に就て多少の心得なくて叶わぬことなり。家人の病気に手療治などは思いも寄らず、堅く禁ずる所なれども、急病又は怪我などのとき、医者を迎えて其来るまでの間にも頓智あり工風《くふう》あり、徒《いたずら》に狼狽《うろた》えて病人の為めに却て災を加うること多し。用心す可き事なり。例
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