洩す者多し。毎度聞く所なれども、何ぞ計らん、其《その》手近くせられて優しきお世話を蒙るこそ苦痛の種なれ。畢竟人の罪に非ず、習慣の然らしむる所にして、新旧夫婦共に自から不愉快と知りながら、近く相接して自から苦しむ。居家法の最も拙なるものと言う可し。
一 新夫婦は家の事情の許す限り老夫婦と同居せざるものとして、扨《さて》その新婦人が舅姑に接するの法を如何《いかが》す可きやと言うに、新婦の為めに夫は実の父母にも劣らぬ最親の人なる可し。其最親の人の最も尊敬し最も親愛する老父母即ち舅姑のことなれば、仮令い自分の父母に非ざるも、夫を思うの至情より割出して、之に厚うするは当然のことなり。夫の常に愛玩する物は犬馬器具の微に至るまでも之を大切にするは妻たる者の情ならずや。況《いわ》んや譬《たと》えんものもなき夫を産みたる至尊至親の老父母に於てをや。其保養を厚うし其感情を和らげ、仮初にも不愉快の年を発《おこ》さしむることなきよう心を用う可し。殊に老人は多年の経験もあることなれば、万事に付き妨げなき限りは打明けて語り打明けて相談す可し。之を煩わすに似たれども、其相談は老人を疏外せざるの実を表するものにして、
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