屋敷中の別戸なり、又或は家計の許さゞることあらば同一の家屋中にても一切の世帯を別々にして、詰る所は新旧両夫婦相触るゝの点を少なくすること至極の肝要なり。新婦の為めに老夫婦は骨肉の父母に非ざる尚《な》お其上に、年齢も異なり、衣服飲食百般の事に就て思想|好嗜《こうし》の同じからざるは当然の事にして、其異なる所のものをして相互に触れしむるときは、自然の約束に従て相衝かざるを得ず。都《すべ》て是れ双方の感情を害する媒介たるに反し、遠く相離れて相互に見るが如く見ざるが如くして、相互に他の内事秘密に立入らざれば、新旧恰も独立して自から家計経営の自由を得るのみならず、其遠ざかるこそ相引くの道にして、遠目に見れば相互に憎からず、舅姑と嫁との間も知らず識らず和合して、家族団欒の幸福敢て期す可し。即ち新夫婦相引く者をして益《ますます》引かしめ、新旧相衝くの患《うれい》を避けて遠く相引かしむるの法なり。世間無数の老人夫婦が倅《せがれ》に嫁を迎え娘に養子を貰い、無理に一家の中に同居して時に衝突を起せば、乃《すなわ》ち言く、是れ程に手近く傍に置て優しく世話するにも拘らず動《やや》もすれば不平の色ありとて、愚痴を
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