唯快楽の一方のみと思い却て苦労の之に伴うを忘れて、是に於てか男子が老妻を捨てゝ妾を飼い、婦人が家の貧苦を厭《いと》うて夫を置去りにするなどの怪事あり。畢竟結婚の契約を重んぜざる人非人にこそあれ。慎しむ可き所のものなり。
一 女子の結婚、就中《なかんずく》その他家に嫁したる結婚の後、その家の舅姑に事《つか》うるの法如何は古来世論の喋々《ちょうちょう》する所にして、又実際に於ても女同士なる姑と嫁との間に衝突の起るは珍らしからず。仮令《たと》い或は表面に衝突せざるも、内心相互に含む所ありて打解けざるは、日本国中の毎家殆んど普通と言うも可なり。天下の姑|悉《ことごとく》皆《みな》悪婦にあらず、天下の嫁悉皆悪女子にあらざるに、其人柄の良否に論なく其間の概して穏ならざるは、畢竟人の罪に非ず勢の然らしむる所、一歩を進めて論ずれば世教習慣の然らしむる所なりと言わざるを得ず。其世教に教うる所を聞けば、嫁の舅姑に事うるは実の父母の如くせよ、実の父母よりも更らに厚くして更らに親しみ敬えと教うると同時に、舅姑に向ては嫁を愛すること真実の娘の如くせよと言う。此事果して実際に行わるれば好都合なれども、天然の人情は
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