中に浮沈するものと言わざるを得ず。左れば今日両性の気品を高尚にして其交際を広くし、随て結婚の契約をも自由自在ならしめんとするには、唯社会改良の時節を待つのみ。否な、徒《いたずら》に其時節到来を待つに非ず、天下有志の善男善女が躬践《きゅうせん》実行して実例を示し、以て其時節を作らんこと、我輩の希望し勧告する所なり。
一 女子の結婚は男子に等しく、他家に嫁するあり、実家に居て壻養子するあり、或は男女共に実家を離れて新家を興すことあり。其事情は如何ようにても、既に結婚したる上は、夫婦は偕老同穴、苦楽相共の契約を守りて、仮初にも背《そむ》く可らず。女子が生涯娘なれば身は却て安気なる可きに、左りとては相済まずとて結婚したるこそ苦労の種を求めたるに似たれども、男女家に居るは天然の命ずる所にして、其居家の楽しみは以て苦しみを償うて余りある可し。故に結婚は独身時代の苦楽を倍にするの約束にして、快楽も多き代りに苦労も亦多し。夫婦正しく一身同体、妻の病気には夫の身を苦しめ、夫の恥辱には妻の心を痛ましめ、其感ずる所に些少《さしょう》の相違あることなし。世の男女或は此|賭易《みやす》き道理を知らずして、結婚は
前へ
次へ
全39ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング