り、規則あり。すなわちその約束規則は自家の安全をはかるものより外ならず。しかのみならず、この法外の輩が、たがいにその貧困を救助して仁恵を施し、その盗みたる銭物を分つに公平の義を主とし、その先輩の巨魁《きょかい》に仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約を違《たが》えざる等、その局処についてこれをみれば、仁義礼智信を守りて一社会の幸福を重んずる者の如し。ゆえに平安の主義は、法外の仲間にも行われて、有力なるものといわざるをえざるなり。
 また、血気《けっき》の輩《はい》が、ただ社会の騒動を企望《きぼう》して変を好み、自己の利益をもかえりみずして妄《みだり》に殺伐をこととするは、平安の主義にもとるが如くなれども、つまびらかにその内情を察すれば、必ず名利のためより外ならざるを発明すべし。名利とは何ぞや。他なし、自己の幸福、社会の安全に関係するところのものなれども、ただ審判の力に乏しくして、あるいは事の成《せい》を期すること急に過ぎ、あるいはその事を施行《しこう》すること劇《げき》に過ぎて、心事の本色を現わすこと能わざるのみ。
 たとえば少年の勇士が死を決して自から快と称
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