ず、上士《じょうし》の用人役《ようにんやく》たる者に対しても、同様の礼をなさざるを得ず。また下士《かし》が上士の家に行けば、次の間より挨拶《あいさつ》して後に同間《どうま》に入り、上士が下士の家に行けば、座敷まで刀を持ち込むを法とす。
 また文通に竪様《たてざま》、美様《びざま》、平様《ひらざま》、殿付《とのづ》け等の区別ありて、決してこれを変ずべからず。また言葉の称呼《しょうこ》に、長少の別なく子供までも、上士の者が下士に対して貴様《きさま》といえば、下士は上士に向《むかっ》てあなたといい、来《き》やれといえば御《お》いでなさいといい、足軽が平士《ひらざむらい》に対し、徒士《かち》が大臣《たいしん》に対しては、直《ただち》にその名をいうを許さず、一様に旦那様《だんなさま》と呼《よび》て、その交際は正《まさ》しく主僕の間のごとし。また上士の家には玄関敷台を構えて、下士にはこれを許さず。上士は騎馬《きば》し、下士は徒歩《とほ》し、上士には猪狩《ししがり》川狩《かわがり》の権を与えて、下士にはこれを許さず。しかのみならず文学は下士の分にあらずとて、表向《おもてむき》の願を以て他国に遊学《ゆ
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