走獣《そうじゅう》あえて飛鳥《ひちょう》の便利を企望《きぼう》せざる者のごとし。また前にいえるごとく、大臣と小姓組との身分は大《おおい》に異《こと》なるがごとくなれども、小姓組が立身《りっしん》して用人《ようにん》となりし例は珍《めず》らしからず。大臣の二、三男が家を分《わか》てば必ず小姓組たるの法なれば、必竟《ひっきょう》大臣も小姓組も同一種の士族《しぞく》といわざるを得ず。
 また下等の中小姓《なかごしょう》と足軽《あしがる》との間にも甚《はなはだ》しき区別あれども、足軽が小役人《こやくにん》に立身してまた中小姓と為《な》るは甚だ易《やす》し。しかのみならず百姓が中間《ちゅうげん》と為《な》り、中間が小頭《こがしら》となり、小頭の子が小役人と為れば、すなわち下等士族中に恥《はず》かしからぬ地位を占《し》むべし。また足軽は一般に上等士族に対して、下座《げざ》とて、雨中《うちゅう》、往来に行逢《ゆきあ》うとき下駄《げた》を脱《ぬ》いで路傍《ろぼう》に平伏《へいふく》するの法あり。足軽以上小役人格の者にても、大臣に逢《あ》えば下座《げざ》平伏《へいふく》を法とす。啻《ただ》に大臣のみなら
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