動かすべからざるもののごとし。今日に至《いたり》ては稀《まれ》に上下相婚する者もなきに非ざれども、今後ますますこの路を開くべきの勢《いきおい》を見ず。上士の残夢|未《いま》だ醒《さ》めずして陰《いん》にこれを忌《い》むものあれば、下士は却《かえっ》てこれを懇望《こんぼう》せざるのみならず、士女の別《べつ》なく、上等の家に育《いく》せられたる者は実用に適せず、これと婚姻を通ずるも後日《ごじつ》生計《せいけい》の見込なしとて、一概に擯斥《ひんせき》する者あり。一方は婚を以て恩徳《おんとく》のごとく心得、一方はその徳を徳とせずしてこれを賤《いや》しむの勢《いきおい》なれば、出入《しゅつにゅう》の差、甚《はなは》だ大にして、とても通婚《つうこん》の盛《さかん》なるべき見込あることなし。
 然《しか》りといえども、世の中の事物は悉皆《しっかい》先例に傚《なら》うものなれば、有力の士は勉《つと》めてその魁《さきがけ》をなしたきことなり。婚姻はもとより当人の意に従《したがっ》て適不適もあり、また後日生計の見込もなき者と強《し》いて婚《こん》すべきには非ざれども、先入するところ、主となりて、良偶《りょ
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