尋常《じんじょう》の業に従事するも、双方互に利害情感を別にし、工業には力をともにせず、商売には資本を合《がっ》せず、却《かえっ》て互に相《あい》軋轢《あつれき》するの憂《うれい》なきを期すべからず。これすなわち余輩の所謂《いわゆる》消極の禍《わざわい》にして、今の事態の本位よりも一層の幸福を減ずるものなり。けだし人事の憂患《ゆうかん》、消極の域内に在るの間は、未《いま》だその積極を謀《はか》るに遑《いとま》あらざるなり。
今消極の憂《うれい》を憂《うれえ》てこれを防ぐにもせよ、積極の利を謀《はかっ》てこれを求《もとむ》るにもせよ、旧藩地にて有力なる人物は必ずこれを心配することならん、またこれを心配して実地に従事するについては様々の方便もあらん、また様々の差支《さしつかえ》もあらん、不如意《ふにょい》は人生の常にしてこれを如何《いかん》ともすべからず。故に余輩の注意するところは、未《いま》だ積極に及ばずして先ずその消極の憂を除くの路《みち》に進まんと欲するなり。すなわちその路《みち》とは他《た》なし、今の学校を次第《しだい》に盛《さかん》にすることと、上下士族|相互《あいたがい》に婚姻
前へ
次へ
全42ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング