《こんいん》するの風を勧《すすむ》ることと、この二箇条のみ。
そもそも海を観《み》る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声《しょうせい》に驚かず、感応《かんのう》の習慣によって然《しか》るものなり。人の心事とその喜憂《きゆう》栄辱《えいじょく》との関係もまた斯《かく》のごとし。喜憂栄辱は常に心事に従《したがっ》て変化するものにして、その大《おおい》に変ずるに至《いたっ》ては、昨日の栄《えい》として喜びしものも、今日は辱《じょく》としてこれを憂《うれう》ることあり。学校の教は人の心事を高尚《こうしょう》遠大《えんだい》にして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めしむるものなれば、一聞一見も人の心事を動かさざるはなし。
地理書を見れば、中津の外に日本あり、日本の外に西洋諸国あるを知るべし。なお進《すすみ》て、天文地質の論を聞けば、大空《たいくう》の茫々《ぼうぼう》、日月《じつげつ》星辰の運転に定則あるを知るべし。地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊《みだ》れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執《と》り
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