《ぐ》たるを悟《さと》り、興《きょう》に乗じて深入りの無益たるを知り、双方共にさらりと前世界の古証文《ふるしょうもん》に墨《すみ》を引き、今後《こんご》期《き》するところは士族に固有《こゆう》する品行の美《び》なるものを存して益《ますます》これを養い、物を費《ついや》すの古吾《こご》を変じて物を造るの今吾《こんご》となし、恰《あたか》も商工の働《はたらき》を取《とっ》て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中文明の魁《さきがけ》たらんことを期望《きぼう》するなり。
然《しか》りといえども、その消極を想像してこれを憂《うれ》うれば、また憂うべきものなきに非ず。数百年の間、上士は圧制を行い、下士は圧制を受け、今日に至《いたり》てこれを見れば、甲は借主《かりぬし》のごとく乙は貸主《かしぬし》のごとくにして、未《いま》だ明々白々の差引《さしひき》をなさず。また上士の輩《はい》は昔日の門閥を本位に定めて今日の同権を事変と視做《みな》し、自《おのず》からまた下士に向《むかっ》て貸すところあるごとく思うものなれば、双方共に苟《いやしく》も封建の残夢を却掃《きゃくそう》して精神を高尚の地位に保つ
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